国際法はテロ行為に反対
武力報復を禁止
「自衛権」口実でも否定

不破議長、志位委員長の各国首脳への書簡が指摘

しんぶん赤旗2001年9月18日

日本共産党の不破哲三議長と志佐和夫委員長は、2001年9月17日付で、テロ根絶のために「軍事力による報復でなく、法にもとづく裁きを」と題した各国首脳への書簡を発表した。
その大意は、「あのテロは国際社会全体への攻撃であり、世界の法と秩序への攻撃である。このようなテロを根絶することが、21世紀に人類が平和に生きるための根本条件のひとつである。しかし、そのためには軍事力での報復でなく、法と理性にもとづく解決が必要である。この意味で、いま米国が進めている報復は、テロ根絶にも効力がなく、新たな戦争とそれによる巨大な惨害をもたらし、事態を泥沼化させる。今必要なことは、「法にもとづく裁き」、すなわち、国連が中心になり、国連憲章と国際法にもとづいて、テロ犯罪の容疑者、犯罪行為を組織、支援した者を逮捕し、裁判にかけ、法にてらして厳正に処罰することである。そのためには、国際的協力が必要である」というもの。

この書簡の背景となった国際法と、それをめぐる動きが、同紙に紹介されており、たいへん参考になるので紹介します。

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テロ行為の責任者をどう処罰するかについては、一九六〇年代以降、テロ行為の犯罪類型に対応して、主に以下のような条約が結ばれています。

条約の精神が国際的ルール
・航空機の不法な奪取の防止に関する条約(七〇年)
・民間航空の安全に対する不法な行為の防止に関する条約(七一年)
・人質をとる行為に関する国際条約(七九年)
・核物質の防護に関する条約(八○年)
・海上航行の安全に対する不法な行為の防止に関する条約(九七年)
 これまで作成された条約の大きな流れは、いうまでもなくテロ行為を重大な違法行為とみなした上で、テロ行為の容疑者については、テロの被害を受けた国に引き渡すか、あるいは行為者のいる国で裁判にかけるかのどちらかでした。
 現実には、テロ行為の容疑者を国家がかくまっているような場合や、引き渡しに応じない場合もあります。しかし、条約の精神が、今後慣習法としても確立されなければならない現在の国際的な基本ルールであることは明白です。八八年の米パン・アメリカン機爆破・墜落事故への国際社会の対応も、そのことの重要性を示しています。
 他方、テロの標的となってきた側の対応はどうだったでしょう。
 米国やイスラエルなどは、テロ行為を犯罪とみなすのではなく、安全保障上の問題だととらえ、「武力攻撃が加えられたのだから、自衛権で反撃する」と、たびたび述べてきました。
 このような考え方は、国際社会では、少なくともこれまでは否定されてきました。七〇年代のイスラエルによるレバノンなどへの攻撃、八○年代の米国によるリビア爆撃などの際、国連安保理や国連総会が自衛権の発動だという主張を否定し、違法行為だとして批判決議を採択しています。
 七〇年の「国際連合憲章に従った諸問題の友好関係及び協力についての国際法の原則に関する宣言」では、「国は、武力の行使を伴う復仇(ふっきゅう)行為を慎む義務を有する」と規定して、武力報復を禁止しています。
 「復仇」とは「仕返し」のことです。相手国の攻撃は終了しているのに報復のために武力行使することは、これまでも慣習国際法上で禁止されているとみなされてきましたが、この宣言で明文で禁止されました。


74年国連決議「侵略の定義」
 一方、七四年の国連総会で決議された「侵略の定義」では、武装集団を雇って他国を砲爆撃したり、航空機を攻撃したりするような行為は、自衛権を発動して反撃できる「侵略」行為だと認定し、八六年の国際司法裁の裁定でも、これを「一般的な合意」であると認めています。しかし、やむなく武力反撃を行う場合にも、自衛権を発動しなければ相手の武力攻撃を抑えられないような場合に眼リ、相手の攻撃に見合うだけの反撃しか許されないというのが慣習国際法上確立した考え方です。
 書簡が、テロ容疑者の身柄引き渡しに関係国が応じないような場合には国際条約や国連決議に基づいて、「国際社会が共同で対応することが重要」てあり、その裁判については「国連のもとに特別の国際法廷を開設することも可能」だと指摘していることが重要であるのは、それが現代のこうした国際的な基本ルールにのっとったものであるからです。


88年パン・アメリカン機爆破事件では
 一九八八年のリビア人によるといわれる旅客機爆破事件のその後の経過は、テロの容疑者をどう処するかの一つの先例です。
 事件は同年十二月二十一日、イギリス・スコットランドのロッカビー村の上空で発生。パン・アメリカン航空機が爆発し、乗客・乗員二百五十九人と住民十一人が死亡しました(通称、ロッカビー事件)。英米の捜査当局は、二人のリビア国民(情報機関員)が関与しているとし、九一年十一月、スコットランドの検察が殺人謀議などで告発。これを受けイギリス政府は、リビア政府に容疑者の引き渡しを要求しました。リビアは、捜査には協力するとしたものの、容疑者の引き渡しを拒否。これに対して国際社会は、ねばリ強く対応し、九九年三月、リビアが容疑者の引き渡しに応じることを表明。その際、第三国のオランダに特設法廷を開くことなどが条件となリました。今年一月、特設法廷は、主犯格の一人を終身刑に、もう一人を無罪としました(主犯格は控訴)。
 この裁判に至る国際社会の努力は教訓的です。九一年十二月、米英仏は容疑者引き渡し問題を国連安保理と総会に付託し、九二年一月、国連安保理は三国の要請に応じるようリビアに促す決議七三一を採択。安保理はさらに九二年三月、リビアがこの決議にこたえていないことなどをふまえ、経済制裁を決定しました(決議七四八)。制裁内容は、リビアヘの航空機の乗リ入れ停止、航空機部品等の供給禁止、武器や関連機材の禁輸等でした。
 同時にこの決議は、国連史上初めて、国際テロを「国際の平和と安全に対する脅威」と位置付けました。国連の経済制裁が続くなか、国連が仲介して英米とリビアが協議し、容疑者の引き渡しが決まったのです。

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