ブッシュを戦争に駆り立てる二人の男
「オブザーバー」2003年2月23日 エド・ヴリアミー ブッシュの戦争を「石油のための流血」と片付けては単純すぎる。ブッシュを操るチ ェニー副大統領とラムズフェルド国防長官のさらに背後で糸を引く二人の男は、単な る利益を越えた立場に立つイデオローグだ。それが、カール・ローヴとポール・ウォ ルフォウィッツ。前者は南部プロテスタントの保守派、後者はレーガン時代から一極 的権力の達成を推進してきた東海岸のユダヤ系インテリゲンチャ。前例のない組み合 せによる、恐るべき同盟である。 ◇ローヴ 少年時代からの右派。学生時代にはすでに共和党員として平和運動に反対の活動を展 開 政界では珍しい、自分の正体を現さない、職人肌の人間である。 ブッシュとのつきあいは、彼がファンダメンタリズムの力を借りて回心を遂げアルコ ール依存症から抜け出したのちで、政治よりも、道徳観で響き合った。右翼宗派キリ スト教同盟をブッシュ一家の中に持ち込む。 1987年以後、民主党が圧倒的主導権を握っていたテキサス州政府を、ほぼすべて共和 党支持に変えるという手腕を発揮。共和党の選挙運動のすべてにわたって指揮をとる ようになり、1994年には子ブッシュを知事に当選させる。 6年間のテキサス州知事時代の政策もローヴが采配を揮ったものだ。 大統領選で、ローブは、ブッシュ・ファミリーの人脈と石油産業の力を頼りに、空前 の精力的ダイレクトメール攻勢を展開して、選挙活動を企画・指揮し、フルタイム、 昼夜兼行でブッシュのために働いた。 ブッシュ家と共和党とキリスト教右派とエネルギー産業を結ぶテキサスコネクション によって成り立つブッシュ政権の中心人物で、エンロン疑惑でも、エンロン社とのつ ながりの深さを暴露されている。 共和党全国組織の「テキサス化」を達成した、ホワイトハウスの最も重要な政策アド バイザーである。 企業家の右派のための政治を行うには、キリスト教徒右派をなだめなければならない という点で、二人の見解は一致する。 ◇ウォルフォウィッツ ローヴは今や本来の立場を越えて国際政策にも関与しているが、元来ブッシュととも に孤立主義者だった。9・11が、それを変えた。 イスラム世界について彼は、イスラムは「権力と支配の喪失に甘んじたことのない大 帝国」であり、「アメリカはイスラムに愛されると期待することはできないが、尊敬 を強制することはできるということを認めなければならない」と言う。 これに共鳴したのがポール・ウォルフォウィッツだ。保守的な南部プロテスタントと 熱狂的で非常に知的な東海岸のシオニストの間の枢軸がこうして形成された。 ウォルフォウィッツは煽動的なタカ派ではなく、慎重で忍耐強く、抜け目なく論理的 で、口調は穏やかだ。学者の息子で、数学者、元外交官。今の米国の中東政策は、ヨ ム・キプール戦争の後にペンタゴン(米国防総省)に入省した彼が立案したものだ。 1992年に彼の書いた計画が、現在のジョージ・W・ブッシュの外交政策、「防衛計画 要綱」だ。ドイツ、日本を含め潜在的ライバルが地域的・世界的役割を広げようとす るのを抑止せよ、米国の利益に直接関わりのない紛争でも核・生物・化学兵器を先制 的に用いるべきだ、米国の一極的新秩序を打ち立て防衛するのはペンタゴンとの論旨 。 「新たなるアメリカの世紀プロジェクト」(PNAC)は彼のグループが正式に発足したも のである。 同プロジェクトが二年前に発表した文書には、米国の世界的覇権にとって「新たな真 珠湾とでも言うべき、なんらかの破局的で、情勢を促進する作用をもった事件」が必 要だと書かれている。「湾岸における大規模な米軍の展開」のほうが、、サダム・フ セイン体制の問題よりはるかに重要だという。 ウォルフォウィッツとラムズフェルドがペンタゴンに設置した諜報グループ「防衛政 策委員会」の長、パールとダグラス・フェイス防衛次官は1996年に、ベンヤミン ・ネタニヤウのために、イスラエルのヨルダン川西岸を含む土地への要求は正当で高 貴であり、アラブ人が我々の権利を無条件に承認することのみが、将来への確固たる 礎だと主張する「きっぱり手を引け(A Clean Break=オスロ和平交渉から)」という 論文を書いている。 中東諸国の外交工作を支持する中東問題専門家からなる国務省「親アラブ派」は、ホ ワイトハウスとのコネを利用するこんな一団に、圧倒されてしまった。 そして国家安全保障会議の中東政策責任者としてエリオット・エイブラムズが任命さ れる。レーガン政権時代からの古参で、中米での「汚い戦争」に関わり、イラン・コ ントラ疑惑ではオリバー・ノース中佐とならび連邦議会で偽証罪の宣告を下されなが ら、父ブッシュによって恩赦を受けた人物である。 彼はそれ以来、米国のユダヤ人の他人種との通婚に反対する本を著し、アリエル・シ ャロンのパレスティナ政策を正当とする助言を行なってきた。ローブとは日常オフィ スで顔を合わせる間柄で、これもウォルフォウィッツの仲間である。 <訳 和氣久明 / 要約 萩谷 良 TUP> (原文のURLは、 http://www.observer.co.uk/international/story/0,6903,901066,00.html ) |