虜の小鳥(あるいは 犬の濡れ衣)

〜少年Aに捧ぐ〜


血に濡れた衣(きぬ)を着せられて
権力の犬にはめられた
憐れな虜の少年よ、
心に棘(いばら)を持つ者よ。
おまえは無名で透明で
どこにでもいる十四で
ダンテが誰なんて知りもせず
か弱い小鳥のようなものだった。
だけど大きな人間が突然やってきて
世界で一番どす黒い闇へ
おまえを曵きずりこんだ。


少年法に鎖(とざ)されて
報道の「自由」に侵されて
おまえは吊るしあげられた
情報時代のキリストだ。
やってもいない殺しのせいで
おまえはそこにぶちこまれた。
医療少年院という名の
正真正銘の監獄へ、
孤独と絶望の高い塀の中へ!
おまえが閉じこめられたのは
「心の独房」などではない。


おまえは無垢で無辜で不幸で
それ以上でもそれ以下でもない子で
断じて《怪物(モンスター)》でも《魔物(デーモン)》でも
もちろん《精神病質者(サイコパス)》でもない!
  あたかも贋物の桃のほうが
本物よりも完璧な形をしているかのように
完全におまえは贋犯人だ。
恐怖の時代を生きている者の耳には
おまえの声が自分自身の声のように聴こえる。
真実は白日のもとにあるし、
僕らは壊れやすい野菜じゃない。
***

躓き倒れて死にかけた
大江は木も見ず森も見ず
爆薬づくりで財(罪)をなした
死者の奢りに酔い痴れる。
愚鈍な警察・検察と
弁護をしない弁護士と
取材をしない記者諸君、
おまえはいったい何なんだ?
無意味で不気味な者どもよ!

(一九九八年五月)


遅れて来た青年