週刊朝日の精神病者差別記事


皆様へ
山本真理です。
「週刊朝日」9月20日号に「医者も見抜けない? 自称「鬱」の増殖−−「やる気がない、会社を休みたい」と訴えて「診断書」を要求」という記事が掲載されています。

要するに最近精神科に気軽にかかっては病気でもないのに、会社を休みたいがためにうつを訴えて診断書を取り、会社を休職する人間が増えている、という記事なのです。

みなリストラにおびえている時代にこういう人がそんなに多いとは思えないのですがどうなんでしょう。

こういう記事を見ると昭和63年の通達でしたっけ生活保護者の貯金を調べろという通達は、あの通達のきっかけとなった「不正受給者キャンペーン」を思い出します。

 もっとも精神科医の中にも「うつなのに抗うつ剤を飲んでもなかなか治らないのは学生と公務員、あるいは生活保障されている人が多い、どうも甘えらしい」などという人もいますが。

うつの人間にはこういう記事はつらいですね。

32条(精神科の外来医療費公費負担制度)も見直しといっているし、そろそろ障害年金カットも言い出すのかもしれません。

私は迷っている仲間にはともかく早く年金を取った方がいいと思う。この経済状況ではどうなるか分からないから、とすすめていますが。

障害者差別禁止法ができたとしても今度は障害者の定義が問題になるわけですがアメリカのADAでは精神障害者が障害者として認められない例が出てきているようです。以下のサイトの記事参照("Psychiatric Services"2001年5月号の「精神疾患とADAにおける障害の定義の変化」の抄訳)。「反精神医学」とは逆の意味で「精神病はほとんど仮病」なんていわれるようになりかねませんね。

http://homepage2.nifty.com/Odradek/critical_psychiatry/library/index.html

以下のメールを週刊朝日編集部に送りました。
皆様もぜひ抗議ないし質問のメールを編集部に送っていただきたいと思います。
とりわけ精神科医はじめ精神医療従事者の方たちにお願いします。
週刊朝日アドレス   syukan@cg.pub.asahi-np.co.jp

====================================

前略
貴誌9月20日号掲載の「医者も見抜けない? 自称鬱の増殖」という記事を拝読いたしました。私は十代より30年余り鬱を病んでおります「精神病」者本人です。本を書くときのペンネームは長野英子と申します。
この記事を読んで、一瞬さまざまな苦い思い出がよみがえってまいりました。どうにも体が動かない日々に、「怠け者」「ガンバレ」「スポーツでも旅行でもして気分転換しろ」などなど周囲の雑音にどれだけ私は追い詰められたことでしょう。鬱を病気として認識しない周囲の声はますます私をうつに追い込み自死を迫るものでした。

この記事はちょうど私を追い込んだ人々と同じ役割を今果たしているとかんじて、憤りに堪えません。

「自称鬱の増殖」とかいておられますが、いったい何を根拠に増殖とまでおっしゃるのでしょうか? どういう統計的根拠があるのでしょうか? 読ませていただいたところ単なる数人の医師の直感主観的こぼれ話程度の根拠しかないとか判断できません。

お二人の方の例が出ておりますが、この方たちが実在するとしても周囲の方の観察と証言だけであり、ご本人の取材をなさってはおられませんね。いまだ精神病に関しては胡散臭さや、あるいは怠け病という偏見が蔓延しておりますが、周囲の方の証言の根拠は確認なさったのでしょうか? 一方的な周囲のものの判断だけをあたかも「真実」と報道なさるのはいかがなものでしょうか?

私どもが患者会活動の中で苦労しているのは(そして精神科医が苦労しているのは)「うつの人をどう説得して休ませるか?」です。かなりうつに関しては知識が普及してきたとはいえ、いったん病気の苦しみのさなかに巻き込まれていると、そうした知識より、この病特有の罪責感のほうが強く、休んでは皆に申し訳ない、この仕事をきちんと整理して引き継ぐまで休めない、あのことが解決してから、などなどでなかなか素直に休養できないことがこの病の特*

でもあります。

またいまの不況下でリストラが進み人減らしの中で労働強化が進んでいるとき、長時間の残業をこなしながらうつの治療をしている方もたくさんおられます。精神科医が嘆いているのは「薬は症状の3分の1しかやわらげられません、休まなければな薬もききません」といっても休養してくれない、あるいは労働現場の実態として休養できないということです。長時間残業では、治るものの治らない、ということです。たとえていえば肺炎の野宿者を真冬に野宿させたまま抗生物質やら点滴やらしているようなものではないでしょうか?

しかしリストラにおびえる状態でなかなか休養ができないのが今の労働現場の実態であり、労働者の実態です。この記事に上げられているような休職の例が本当にあるのかどうかは不明ですが(私などから見ると夢のような話です)、教師の場合でも90日の病休のあと休職、そして休職から復職の条件は完全に治ったということで、休職明けからは「リハビリ勤務」は一切認められず健康な労働者同様の労働を要求されるのが常であり、休職期間を延長せざるを得ず、結局職を失うという例が実は大多数です。発病した労働者の職をどうやって守るのか、それが精神科医はじめ精神保健福祉関係者の悩みの種でもあります。

この苦しみのさなかにいるうつ病患者がこの記事を読んでどういう反応をするかお分かりでしょうか? 私は死者が何人出るかとおびえております。

また企業は即座にこの記事を逆手にとって、うつ病患者のリストラに走らないとも限りません。

うつに苦しむ大多数の労働者をここまで追い詰めるような記事に関し、根拠を明らかにすると同時に、例外ではない大多数のうつ病患者の声を貴誌に反映していただけるよう強く要請いたします。

2002年9月18日

朝日新聞編集部御中ならびに大波綾様

-- ------------------------------

山本真理
jngmdp@ybb.ne.jp
http://www.geocities.jp/jngmdp/

page d'accueil