【しんぶん赤旗2002年4月14日】

ベネズエラ
チャベス大統領の辞任
南米の産油国でなにが

政変 -- クーデターの様相
ちらつく財界と米国の影

ベネズエラのチャベス大統領が十二日、労働組合、国民の批判を背景にした軍部の圧力で辞任に追い込まれました。代わって登場したのは、労働者の代表ではなく、経営者団体連合会の会長。今後の政治の不安定化も予想されています。世界有数の石油産出国でなにが起きているのか。

 チャベス大統領の辞任後、国軍は直ちに民間人を暫定大統領に据える措置をとリました。今回の政変は軍事クーデターの様相をみせています。
 中南米ではかつて軍事クーデターが頻発しました。しかし、正当に選出された政権を強権で転覆することは、許されないとの認識が広まりました。今回の事態はそうした流れに逆行するものです。
 その背景には複雑な要素が絡み合っています。

 チャベス前大統領の辞任の引き金となったのは大衆の大規模な抗議行動でした。しかし、そこに財界とアメリカの影も見え隠れしています。
 経営者団体の会長を務めるカルモナ氏が暫定大統領就任を表明したのは、チャベス大統領の辞任からわずか数時間後。手際の良さには、同氏と財界がチャベス政権の打倒を図ったことが裏書きされています。
 実際、同氏は、市場優先の経済政策を目指し、チャベス政権の経済政策に反対する財界の代表として知られ、昨年十二月にも半日の反政府ストを組織しました。チャベス政権の経済改革が進まなかった理由の一つは、財界の抵抗があります。
 ブッシュ米政権もチャベス大統領の外交・経済政策をたびたび非難してきました。大量の石油を輸入する米国にとって、ベネズエラは重要な輸入先。同国政権の動向は、米国にとって「裏庭」の事態であるだけでなく、ブッシュ政権の柱であるエネルギー政策にかかわっています。
 とりわけ、イラクの石油輸出停止をきっかけにした原油価格の上昇は、ベネズエラの石油公社でのストライキと国政混乱があいまって、米国の景気回復に 影を投げかけていました。
 チャベス政権を排除し、ベネズエラの政局を"安定"させることは、同国財界と米政権にとっても共通した利益でした。
 しかし、軍事クーデターによって政権交代が行われ、新自由主義的な経済政策が強まれば、貧しい国民にとってさらに厳しい環境となることが予想されます。同国の政局がこれで真の安定を得られるとはみられません。 (浜谷浩司記者)

貧困対策道半ば、 対米自主外交貫いたが・・・

 ベネズエラでは一九六〇年代後半から中道政党・キリスト教社会党と社民政党・民主行動党が交代で政権を担う二大政党制が定着していました。しかし、八○年代には石油価格の下落や国際金融機関から押し付けられた構造調整政策(民営化や緊縮財政)によって貧困が増大するとともに、政治家の汚職事件が続々発覚し、国民の不満が増大しました。

腐敗一掃掲げ

 国を破たんに導いた二大政党制の打倒と腐敗の一掃などを掲げてチャベス氏が登場したのが九八年。56%の得票率で当選したチャベス大統領は、新憲法制定に着手。憲法制定議会選挙、新憲法承認の国民投票でも圧倒的な支持を集めました。新憲法には、経済運営での国家の役割を強調し、貧困層を救済する経済社会変革の大枠が盛り込まれました。
 二〇〇〇年七月の大統領選挙でチャベス氏が再選され、同時に行われた国会選挙では二大政党が後退し、二大政党に代わる体制を憲法改正を通じて築くというチャベス氏の「平和約革命」が始動しました。他方(原文「多方」修正)、新憲法では大統領任期の延長(六年)や再選可能条項などが含まれたことで、「大統領権限が強すぎる」との批判も生まれました。

失業率の低下

 チャベス大統領は選挙で再選された直後の二OOO年八月の演説で、いよいよこれからが、貧困対策など本格的な経済社会改革に取り組む時期だと強調しました。主要輸出品である石油価格の高騰という好条件にも恵まれ、就任後一年半で経済成長率はプラスに転換、賃金は44%上昇、失業率は14%台から13%台に低下するなどの成果が上がっていました。また、貧困地区には病院建設などインフラ整備を進めました。
 しかし、新国会では与党は重要法案成立に必要な三分の二の議席には達しておらず、本格的な経済改革のための法案の具体化は野党との協議を余儀なくされました。与党側は国会審議なしで法律を制定する権限を大統領に与える「権限法」を通します。
 一方、昨年からは石油価格が下落し、チャベス政権は今年二月、国家予算収入の22%が不足する事態に追い込まれ、付加価値税のぜいたく品税率引き上げなどの一連の対策を発表しました。しかし、財源の保障は十分とはいえず、予定されていた十三万世帯分の住宅建設(約十三億ドル)の実施も危ぶまれ、「チャベス革命は公約を果たせない」との批判が高まっていました。

米の戦争批判

 他方、チャベス政権は積極的な対米自主外交を進めました。チャベス大統領は二OOO年にイランやイラクなど米国が敵視する国々を次々訪間。昨年の米州サミット(ケベック)で米国主導の米州自由貿易圏の発効期限などが合意された際には唯一「保留」の態度をとりました。また、昨年からのブッシュ米政権によるアフガニスタン戦争を厳しく批判する声明を発表し、親米政権の多い南米の中では珍しく対米批判姿勢を貫きました。
 キューバのカストロ議長とは親密な関係を築き、同国にたいして日量五万三千バレルの原油を特別条件で供給する協定を結んでいます。チャベス大統領は、キューバの政治経済体制に繰り返し親近感を表明し、キューバ医師団を貧困地区での治療などのために招く事業もすすめていました。 (メキシコ市で菅原啓)

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