ニューヨーク・タイムズの水準とはこんなものか

「クーデタが『民主主義の勝利』?」
ビル・ヴァン    
15 April 2002    

 ブッシュ政権は、ベネスェラの政権転覆を礼賛した点、世界でも異彩を放つ政権である。この米国の支配階級の傲慢と偽善を、この上なく完璧に表現してみせたのが、土曜日発行のニューヨークタイムズの論説だった。

「きのうのウーゴ・チャベス大統領の辞任によって、ベネスェラの民主主義は、もはや独裁者に脅かされずに済む」と、同紙論説「ウーゴ・チャベス去る」は書いた。「破壊を引き起こす大衆煽動者であるチャベスは、軍の介入のあと、退位し、その権力を、尊敬される財界指導者であるペドロ・カルモーナ氏に譲り渡した」と、この論説は嬉しそうに書いている。

 軍が権力を奪って、選挙で選ばれた政府を転覆すると、民主主義の脅威がなくなったと書いているのである。

 戦争を平和と定義し、隷従を自由と定義し、無知を力と定義する「ニュースピーク」を作った、ジョージ・オーウェル作『1984年』の「真理省」でも、これほどにはいくまい。

 論説は、こう続ける。「ワシントンは賢明にも、決してチャベス氏の国民的殉教者としての役割を否認して、彼を公然と悪魔扱いしたことはない。まさしく、彼の罷免は純粋にベネスェラの国内問題なのだから」

 何をおっしゃる。ニクソン政権だって、1973年のチリの軍事クーデターのとき、「あれは純粋たるチリの国内問題だ」と言い張ったではないか。CIAとペンタゴンがサルバドール・アジェンデ政権の転覆を長い間かけて準備したことは、その後数年間の上院の調査で徹底的に明らかにされているのだ。ヘンリー・キッシンジャーは、クーデタ準備のなされていた期間に言ったものだ。「なぜ一つの国が、その国民の無責任のせいで共産化するのを、我々が手をこまねいて見ていなければならないのかわからない」。

 ベネスェラに対するニューヨーク・タイムズの基本的スタンスもこれだ。なぜ、武力を用いれば「尊敬される」財界指導者を権力の座につけることができるというのに、ベネスェラ国民が一般投票で「破壊を引き起こす大衆煽動家」を選ぶことが認められるのだ、というわけだ。

 民主的諸権利に対する挑戦は、なにもベネスェラに限ったことではない。ニューヨーク・タイムズも、他の表面上リベラルなメディアも、2000年の大統領選挙の時とおおむね同じ役割を演じている。憲法外の手段によるごまかしで選挙に勝ち、権力を得た政権に、偽の合法性を与えてやったのが、あの時のメディアの仕事だった。これが、数十年にわたる自由主義による社会分極化の招いた結果である。ニューヨーク・タイムズの「世論制作者」にとって、民主主義の最も基本的な原則はカラ文句であり、持てる者の利権を持たざる者に対して防衛するためなら容易に裏返しにできるのだ。

 ニューヨーク・タイムズその他の出版物の「ニュースピーク」を翻訳するには、あるがままのことを言えば済む。ベネスェラで維持されることが望まれる「民主主義」とは、要するに、支配階級と米国の多国籍企業を防衛することだ。そのために、選挙で選ばれた政府を転覆して、民衆を殺戮する必要があるなら、それもよし。

The New York Times salutes a "democratic" coup
By Bill Vann
15 April 2002
URL:http://www.wsws.org/articles/2002/apr2002/nyt-a15.shtml
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